ロンドンの吸血鬼たち

午後ロンドン・サウス地区の調査からもどり、いよいよロンドン・ヴァンパイア・グループの月例会に行く。

店は、オックスフォード通りの、Ben Crouch Tavern。夜八時を回っても、まだ明るいロンドン繁華街。
店に入ると、一瞬吸血鬼ではなくて、SFおたくの集会所かと思うようななじみぶかーい雰囲気がただよっていた。

牙をはやした男をつかまえ「えーとすいません、吸血鬼のかたですよね?」と訊ねる。
すると、男は「あ、ときどきね」と答えた。
サークルの中心人物である貴婦人に謁見を申し込む。
ゴスだけど、健全な感じ。
ケダモノの群れである我々、図々しく姫に突撃インタビュー。
十年くらい前からネットで呼びかけて集まって、ピクニックに行ったり、トランシルバニアに旅行に行ったり、イベントをしたりしている、という。

「ピクニックっておもしろいですね」
マリス・ミゼルのイチゴ狩りツァーのことを思い出して微笑むわたし。
……と、白いエレガントなブラウスを着た痩せた貴公子が現れ、「ピクニックにいっしょに行かないか?」とちらしをくれた。
「もしかして、夜、墓場でピクニック…?」(そして、その辺で狩りをしてお食事)と訊ねると、
「昼間だし、ニンニク入りのサラダを持っていっても大丈夫だよ」と言われた。

これが、英国特有のブラックジョークというものなのだろうか?
吸血鬼といえば、十九世紀末には上京してきた田舎っぺだったはずだが、ここ百年ばかしの間にあか抜けて、
吸血鬼であろうと英国特有のブラックジョークがついでてしまうくらいになったのだろうか?
ともあれ、吸血鬼たちは非常に楽しそうだった。

なおSF作家のキム・ニューマンは、ここにきたことはないし、吸血鬼たちもSF大会に行ったことはない、とのこと